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エピソードⅢ ソウル・マイ・ラヴ

(この記事は、1999年4月に執筆・掲載した記事を、2017年版に加筆修正いたしました。世相も若干、新しめにしています。)

 

私はそのときソウルにいた。

私はそのときソウルにいた。何故かソウルにいた。

焼き肉食っていた。

それが、あんな事になるとは。

バンコク

先月の卒業旅行のバンコクからまだ1ヶ月も経っていないというのに、また海外に来てしまっていた。

バンコク・・・。

男4人でなにしに行くか、多くは申しますまい。

一言付け加えるのであれば、「私は、なにもやましいことはやっていない」という、信用度ゼロのセリフである。

卒業前の3月というせいもあってか、まわりは社会人に向けて引っ越しや旅行のラッシュとなり、私も、残りわずかな学生生活をただ、だらだらと過ごしていた。

そんな腐ったある日。

バンコクで一番はじけていた彼が、「ソウル 夜の歩き方」なる本を片手に遊びに来た。

彼:「おい、ソウル行くぞ、ソウル。」

僕:「はっ?」

そういうと、彼は私に、チケット予約の申込用紙を手渡してきた。

そこにはすでに、私の名前がしっかり書き込まれていた。

「なにー。」しかも、出発あさってやんけ。

急遽、「社会人になったら、なにかと入り用になった時のための隠し資金」から、

飛行機代を捻出すると、なぜか、やさぐれた大学生の部屋にありがちな、「肝心なものが、いざという時にない現象」が発生。

捜索すること3時間。こたつの中に転がっていたパスポートを引っぱり出し、鞄に詰めた。

当日。

バンコクと同様、いわゆる「世界のオカモト」をいっぱい詰めた友人と、

「整腸剤」を行商するほど詰めた私は、まだ真新しい関西空港にいた。

外は、うっすらと雪。

韓国も寒いんだろうななどと旅愁に浸っている横で、

友人は、バイブルとして崇め奉っている「夜の歩き方」の熟読に余念がなかった。

こんなに熱心な彼は、大学4年間でそう見られたものではない。

「どうせ、ろくなんいないって、白浜の時にいた女子高生みたいにさぁ」

という私に、「いや、バンコク以上に期待できそうだ」と言い切った。

そんなおばか2人を乗せ、UA(UNITED AIRLINES)の飛行機は、関空を後にした。

ソウル・金浦空港

はっきり言って、実家に帰るよりも短時間で到着。

そりゃみんなソウルもいくわな。

 

 これまで、バックパッカーメインだった我々にとって、今回は初の「エアーチケット・ホテル予約付き」のパックツアーだったので、現地のガイドが待っているらしい。

 

ガ:「コンニチハ?」

そう言われて、振り向くと華原朋美バリの(全盛期の)かわいい添乗員に、

友人は反射的に「世界のオカモト」を出そうとしていた。

そんな我々と、いまなら、KPOPにドはまりしそうな買い物目的のOLさん。

その横には、新婚旅行なのか、いちゃいちゃしまくりの新婚さん。

そして、スマホで加工することがマストの女子大生3人組。

これが、我々のツアーメンバーである。

といっても、自由行動で、宿泊するホテルだけが一緒なのだが・・・。

ホテル。

新婚夫:「ごらん、あれがソウルタワーさ。」

新婚妻:「なんてロマンティックなの」

(BGM*アンチェインドメロディ 「ゴースト」のテーマ)てなことはなく・・・。

私:「おい、目の前、高速走ってるぞ」

彼:「それより、お湯でんし、このライト電気つかんで。」

やっぱり安いだけのホテルであった。

既に、「歩き方」(くどいが夜の歩き方)を熟読した友人は、もうガマンできないのだろう、「行くぞ」と、私をせかした。

 

夜9時。

我々は東大門と言われる場所にいた。

軽く屋台で、飯を食うとぶらぶらと観光した。

私:「なんかつまらんなぁ。」

彼:「じゃ、いくか。(オカモトを使う場所)」

私:「どこへ(居酒屋)?」

彼:「決まってるがな、楽しいとこや!(オカモトを発揮できる場所)」

そういうと、ドヤ顔で、明洞(ミョンドン)と呼ばれるソウル一の繁華街へとやってきた。

が、ここは「昼」の繁華街だった。

ついたとき、あいていたのは、コンビニと居酒屋数件だけだった。(1999年当時)

彼:「コンビニで、その手の本かおうや」

私:「おー、そうするか」(よくよく考えたら、ハングル語、よめへんやろ!!)

コンビニでしゃべっていると、矢崎滋似の韓国人が、声をかけてきた。

滋:「アナタタチハ、ニホンノカタデチカ?」

このおっさんに、聞いてみよう。

私:「そうです、いま、飲めるところ探しています。」

滋:「アー、ココラニハナイネェ、江南ニイクデス。」

私:「江南?」

滋:「ヨルノマチデス。」

彼:「夜の街?!(オカモト発揮!)」

彼はこの言葉で、浜崎あゆみばりの目の大きさになった。

滋:「ワタチシッテル、アナタタチオモシロイ、ワタシツレテク。イッシヨニノムデス」

私:「どうする?」

彼:「やばくなったら逃げたらいいやろ、このおっさん弱そうなデブやし」

私:「とりあえず、カーナンバー覚えとこ」

そう小声で打ち合わせすると、おっさんのセダンに乗り込んだ。

シャ乱Q””X”など、ガンガンかかる、滋のセダンは

ソウルの夜のハイウェーを突っ走った。

すっかりフレンドリーになった我々は、車の中で「ずるい女」を大合唱であった。

「なんか起こりそうだ」そんな予感を胸に、滋カーは江南の地区へと着いた。

が、どうみても、なにもありそうにない。

確かに、高級そうなブティックや、焼肉屋はあるが、連れのご所望している肝心の、「ちょっとお姉さんと遊びながら・・オカモト」というところは見当たらない。

彼:「ねぇキムさん、ないやん、カラオケのあるようなとこ。」

滋:「アレーオカチイネェー」滋は、困った顔をしたが、

我々は、「こりゃ、なんかやばいな」と思い始めていた。

まさに、「何か起こりそう」なのである。

私:「キムさん、ありがと。適当に探すわー。かむさはむにた、あにょはせよー」

そういうと、我々は、歩き始めた。

滋は、それを見て素っ頓狂のような声を上げた。

滋:「ダメダメ、アブナイネー。ココラハまふぃあトカイッパイネ。、コロサレルアル。」

私は、またそんなこといって、と思いながら前を見ると

男たち:「*@+?¥!”#$%’」

なにやら怒鳴り声が聞こえ、数人の屈強な男が飛び出してきた。

私:「や、やばいかも・・・。」

そう思った我々は、滋の忠告に従うことにした。

滋:「タイジョウブ。イイトコ オモイダチタ、ヤスイ。タノシイ」

そう滋は言うと、携帯でどこかに電話をかけ始めた。

そして、滋カーは、なぜか来た道を戻るのだった。

結局、最初のコンビニの近くまで帰ってきた。

滋:「ココネ、ココ」

見るとジョッキの絵を描いてあるネオンの店だった。「BAR」ってかいてある。

滋:「びーるヤスイノネ」「タクサンノムネ」

そう言うと滋は、階段を下り、地下の店へ入っていった。

彼:「どうする?」

私:「まあ、1杯だけ飲むか。それで帰ろう」

我々も中に入った。

薄暗い店内は、客が10人も入ればいっぱいになる。

そして、何故か、ガラス張りのサウナのようなカラオケボックス部屋が2部屋。

その一室に、われわれは入った。

滋:「サア!ウタウ。ワタシ、ナガブチスキネ。」

そう言うと、滋は「乾杯」をセットした。

カラオケシステムの字幕は日本語で、連れもマイクを持って歌い始めた。

そこにウェーターが来たので、250円ぐらいの生ビールを頼むと、

私もなにを歌おうかとカラオケの本を開いていた。

そのとき、突然「コンニチハー」といって、明らかにホステスとおぼしき、神田うの風の女の子と、千秋風の女子大生が、お酌をしにはいって来た。

私:「カラオケボックスちゃうやん・・・!」

といぶかしながら連れを見ると、「世界のオカモト」がやっと、やっと・・・と連れは感無量のご様子だ。

うの:「ネエ、ワタシモノンデイイ?」手を触れながら、私の膝の上に、うのが乗ってきた。まさに、バンコクを彷彿とさせるシチュエーションである。(くどいが、私はなにもしていない)

私:「ど、どうする?」と私は「乾杯」を滋と熱唱している連れに問うた。

彼:「ええんちゃう、楽しそうやん」

私:「そ、そうやな」

ええい、もうしらーん。のめやうたえや。

うの:「アリガト・かむさはむにだ」そう言うと、うのは、部屋を出ていった。

私は、「浪漫飛行」をセットすると、「乾杯」をハモりに加わった。

まさに、卒業旅行万歳!ソウルの夜に乾杯である。

ガチャ、ドアが開いた。

うのは、

「リポビタンD」大のウイスキー小瓶を2本、

水割り用のペットボトル3本、

コーラ3本

そして清酒2本 を机の上に、ガンと置くと、

「キリキリキリ」と、ウイスキーの小瓶を目にも留まらぬ早さで、開け始めた。

「ちょっ、ちょっとまって、ウェイトォー!!」我々2人は、ほぼ同時に叫んだ。

彼:「た、たのんでないで!」

そう言っているさなか、次は、千秋が、バラエティに富んだピーナッツ、トロピカルなフルーツの盛り合わせと、そしてするめが一枚、高級そうな皿に入って運ばれてきた。

私:「おーい、頼んでないって!」

彼:「キムさん、なんか言ったって、頼んでないって。」

滋は、びっくりした顔をしながら、うのに、ぶつぶつというと、私に対してこういった。

滋:「ゆー、アナタノンデモイイヨイッタカ?」

僕:「あー、ビールをね。ぴーじゅーね。」

うの:「チガウモン、ウイスキーイイテ、イッタモン」と、

うのは、そう言いながら、さらに清酒も開けようとする。

私・彼:「こらこらこらこらこらー、あけんなや!」

我々の本気の突込みに、うのは、てでいった。

彼:「キムさんどうしたらいいの?」

滋:「ワタチモワカラナイ、コンナノハジメテ」と頭を抱え始めた。

僕:「おいおい、おっさん。・・・・・」

連れは、とりあえずメニュー表を開いた。そして、黙り込んだ。

私:「どした?」私もメニュー表を受け取り、開いて見た。

ういすきー1本:120,000ウォン (12,000円)

冷酒   1本:100,000ウォン (10,000円)

水    1本: 20,000ウォン (2,000円)

こーら  1本: 50,000ウォン (5,000円)

ピーナッツ盛り: 80,000ウォン (8,000円) 

フルーツ盛り :100,000ウォン (10,000円)

スルメ    : 80,000ウォン (8,000円)

トータルお会計:910,000ウォン(91,000円)

というとんでもないものであった。

私:「こりゃ、浪漫飛行どころじゃねえな。」

滋は、だんまりでへこんでいる。

これは、間違いなくぼったくりだ。地下だ。袋小路だ。これは請求させられるだろう。

連れは、放心状態である。

(しゃーない、あの手で行くか。)

私は、滋にこういった。

私:「しかたないな、ちょっと、ATM行って来ます。」

そう言って、連れに、目配せしてガラス部屋のドアノブに手をかけた。

連れも分かったらしく、

彼:「キムさんまってて、すぐ、現金作って、迎えにくるからさ」

それはまるで、「戻ってきたら結婚しよう」といって戦地で必ず死んでしまう兵士が出てくる戦争映画さながら、帰ってくる可能性は皆無である。

私は、「よし、出るぞ」とつぶやきながら、勢いよく、ボックスのドアを開け、出口に向かうと、そこには4人ほどチンピラが、われわれを待ち受けていた。

私:「うっ、でっ、でられん」

まるで、「バイオハザート」のゾンビの世界である。

さらに背後には、安岡力也が3人立っている事に気づくのに、そう時間はかからなかった。

そして、力也(1)が一言こういった。

力也(1):「おい、どこいくんや?」

実にうまい日本語である。が、感心しとる場合ではない。

それはなにを言っても、店から出してあげませんという語調でもあり、

「でるんやったら、かねはらいや。」というサインでもあった。

私:「いや、金がたりんので、お、おろちてこようと思いまして・・・」

力也(2):「なーにーぃ、ふざけたことぬかすなぁ、そうやって出ていこうたって、いかすかぁ」

そう言うと、徴兵上がりの太い二の腕で、襟首捕まれて、カラオケ部屋にずるずると戻された。

私:「あっあのー、わたちたち学生で、お金無いアル。」

私:「こ、今回海外初めてアル。やっと働いて貯めて、ソウルきたアルー。」

私:「大将男前!!、日本人、韓国大好き。we love そうる、イヤー、ほんと。マジで。」

もう、かくなるうえは、徹底的に褒めちぎる。なんなら靴でもなめる。何としてでも脱出するんだ!戦争映画にしてたまるか!!

まるで電波少年出川哲朗並の負け犬を演じ始める私に、連れもあきれ気味であった。

ここは、自分をさらけ出すほかない。

私は生い立ちから、喫緊に起きた食中毒の話まで涙ながらに語り、力也3人衆に同情を誘い、かくして軟禁3時間後、ようやく、ひとり3千円の支払いという事で、解放されたのだった。

その間、連れは、私の負け犬を見ているだけ。滋は、ピーナッツをぼりぼりむさぼり食っていた。

そうか・・・。

地上に出た我々は、結局、滋もグルだったのかとようやく気が付いた。

何とも言えない脱力感を、滋カーにぶつけると、脱兎のごとく明洞から逃げ去った。

疲労困憊の我々は、ようやく生還した宿泊ホテルで一呼吸しながら、「地球の歩き方ソウル」を開くと、寸分違わない詐欺事件が、そのまま載ってあった・・・・。

 

こうして、ビール1本3000円のソウルツアーの夜は、

となりの新婚さんの楽しそうな物音を聞きながら、更けていくのであった。